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大阪地方裁判所 昭和53年(わ)956号 判決

本籍

韓国慶尚北道義城郡玉山面五柳洞六二八番地

住居

大阪市浪速区恵美須町三丁目六番地山田マンション

繊維製品卸売業

林真行こと

林政行

大正一五年八月二五日生

右の者に対する所得税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官藤村麗子出席のうえ審理を遂げ、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役八月及び罰金八〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができない時は、金四万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判の確定した日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、大阪市浪速区日本橋東五丁目一七番地において、「都繊維」の名称で繊維製品卸売業を営んでいるものであるが、自己の所得税を免れようと企て、

第一、昭和四九年分の所得金額が二八、六一七、九七九円で(別紙(一)修正貸借対照表参照)、これに対する所得税額が一二、一一二、一〇〇円であるのに、売上の一部を除外し、簿外貸付及び仮名預金をするなどの行為により右所得の一部を秘匿したうえ、昭和五〇年三月一五日、大阪市浪速区船出町一丁目三五番地所在浪速税務署において、同税務署長に対し、昭和四九年分の所得金額が五、五七一、三五〇円で、これに対する所得税額が九一二、二〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により所得税一一、一九九九〇〇円を免れ、

第二、昭和五〇年分の所得金額が四八、〇九二、六〇〇円で(別紙(二)修正貸借対照表参照)、これに対する所得税額が二三、五一八、〇〇〇円であるのに前同様の行為により右所得の一部を秘匿したうえ、昭和五一年三月一五日、前記浪速税務署において、同税務署長に対し、昭和五〇年分の所得金額が七、一五四、八六八円で、これに対する所得税額が一、二五四、六〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により所得税二二、二六三、四〇〇円を免れ、

たものである。

(証拠の標目)

一、浪速税務署長作成の証明書三通(各公表金額、過少申告、青色申告取消の事実)

一、被告人の検察官に対する各供述調書、被告人に対する収税官吏の各質問てん末書及び被告人作成の各確認書

(判示全般事実)

一、左記の収税官吏(ないし国税査察官)作成の各調査報告書

中川淳外二名(但し、七丁中丸商店部分、一一丁全部、一三丁中太線で上から八段目の部分、一七丁中太線で上から一ないし三段目の部分、三一丁全部、四〇丁全部、四七丁全部、二二六丁全部、二二三丁全部、二六〇丁全部を除く、第一、第二の各全科目)、中川淳外一名(第一、第二の定期預金、その他の預金、事業主借)中川淳(昭和五二年三月五日付、第一、第二の現金)、伊部邦造(第一、第二のその他の預金、支払手形、前受割引料、第二の未収利息、貸付金)、白井治(第一、第二の受取手形、前受割引料)、飯田二郎(第一、第二の受取手形)、菊地和夫(第一、第二の受取手形、貸付金、前受割引料、第二の仮受利息、未収利息)、中川淳(昭和五二年二月四日付、19-23号と表示されているもの、第一、第二のたな卸資産)、同(同日付、記録19-21号と表示されているもの、第一、第二の事業主貸)、北山和信(第一、第二の事業主借)

一、左記の収税官吏作成の各査察官調査書

堺与志雄(第一、第二のその他の預金、貸付金)、渡利徳郎(第一、第二のその他の預金)

一、左記の者作成の各確認書

中島昌司(昭和五一年一一月四日付、記録一六-一号と表示されているもの、第一、第二の現金、定期預金、その他の預金、受取手形、前受割引料、事業主借、第二の貸付金)、同(同日付、記録一六-二と表示されているもの、第一、第二の現金、定期預金、その他の預金、事業主借、受取手形)、同二通(昭和五二年一月一九日付、第一、第二の定期預金、その他の預金、受取手形)、中沢忠男(昭和五一年一一月五日付、第一、第二の現金、定期預金、その他の預金、受取手形、支払手形、借入金、前受割引料、事業主借、第二の貸付金)同(同年同月二六日付、第一、第二のその他の預金、前受割引料、事業主借)、黒田一成(昭和五一年一一月四日付、第一、第二の各種預金、受取手形、支払手形、事業主借)、同(同年一二月一六日付、第一、第二の各種預金、支払手形)、中村安男(第一、第二のその他の預金、事業主借)、郷治雄(第一、第二のその他の預金、支払手形、第二の事業主借)、斉藤栄男(第一、第二の各種預金、第二の事業主借)、渡辺貫(第一、第二の定期預金)佐竹了昭(第一、第二の受取手形、第二の未収利息、仮受利息)、杉岡喜良(第一、第二の受取手形、第二の前受割引料)、高橋賢治(第二の受取手形、貸付金)、藤本喜三(第一、第二の受取手形、第二の前受割引料)、田中邦彦二通(第一、第二の受取手形、第二の貸付金)、長谷川晴彦(第一の有価証券)、山口保男(第二の借入金)、山中啓輔(第二の未払金)、河原賢三(第一、第二の前受割引料)、山本太郎一(第二のたな卸資産)、浜尾文雄(同)、向井久雄(第一、第二のたな卸資産)、初田静子(第一の前渡金)円生一枝(第一、第二のたな卸資産)、大久保晴玄二通(同)、森田洋治(第二のたな卸資産、未払金)、中川隆(第一、第二のたな卸資産、第二の未払金)、水谷和子(第二の買掛金)

一、左記の者作成の各回答書

中島昌司(第一、第二のその他の預金)、山本明次(第一、第二のゴルフ会員権)、小林茂二通(第一、第二のゴルフ会員権、第二の未払金)、松下義信二通(同)、小宮山ハルイ(第一、第二の貸付金)、島崎克成(第二の前受割引料)、富士株式会社(同)、十六銀行真砂町支店(同)、三和銀行本所支店(同)、香川数雄(同)、綾源治郎(同)、百十四銀行託間支店(同)、吉村芳次(第一、第二の前受割引料)、吉成茂(同)近藤鐘造(同)、北陸銀行名古屋支店(同)、大和銀行名古屋駅前支店(第二の前受割引料)、太陽神戸銀行菊川支店(同)、東海銀行本店営業部(同)、浅野千尋(第一、第二の前受割引料)、中村毅(同)、京都相互銀行高田支店(第二の前受割引料)、朝銀大阪信用組合寝屋川支店(同)、大阪商銀香里支店(同)、酒井弥一郎(第二の支払手形、未払金)

一、左記の者に対する収税官吏の質問てん末書

藤村進(判示事実全般)、田口トミエ三通(同)、田島洋右(第一、第二の定期預金、その他の預金)、植田斉(第一、第二のその他の預金)、坂口勝彦二通(第一の売掛金)、大久保晴玄(第一、第二のたな卸資産)武崎邦夫(第一の仮払金)、山本晃(昭和五一年一一月四日付、第一の前借金、受取手形)、同(昭和五二年二月一八日付、第一、第二の受取手形、前受割引料)、同(同年三月五日付、第一、第二のたな卸資産)、森田克己二通(第一、第二の受取手形、前受割引料)、夫永鉉二通(古市義明(同)、四宮一雄(第一、第二の受取手形、たな卸資産、前受割引料)、中山美恵子(第一、第二の事業主貸、借入金)、田辺英子(昭和五二年一月二二日付、第一、第二の借入金)、同(同年四月十六日付、第一、第二の事業主貸)、三宅彪(第一、第二の買掛金)、吉村芳次(同)、水谷功(第一、第二の仮払金、買掛金)

一、左記の者作成の各供述書

田口トミエ(第一、第二の有価証券)、西井重雄(第一、第二の未払金、第二の前受割引料)、川口悦夫(第二の前受割引料)、池田耕三(第一、第二の有価証券、第二の事業主借)、鈴木稔(第一、第二の受取手形、前受割引料)

一、左記の者の検察官に対する各供述調書

田口トミエ(第一、第二の支払手形、買掛金)、大久保晴玄(第一、第二のたな卸資産)、榎並春太郎二通((第二の貸付金)、吉浦潔(第一、第二の受取手形、前受割引料、貸付金、買掛金)、森田克己(第一、第二の受取手形、前受割引料)、古市義明(同)

一、押収してある左記証拠物件(当庁昭和五三年押一一七九号、カッコ内冒頭の数字はその符号を示す)

借用証二枚(一、第二の借入金)、納品書・請求書領収証類一綴(二、第一の未払金)、同一綴(三、第一、第二の仮受金)、売掛 リーフ四枚(四、第一の買掛金)、同三枚(五、同)、ビニール製ケース入手帳一綴(九、第一、第二の定期預金、その他の預金、貸付金)、支払手形帳三冊(一一、第一、第二の受取手形、前受割引料)、振替伝票四〇綴(一二、同)、銀行勘定帳二冊(一三、第二の受取手形、前受割引料)、会計伝票一二綴(一四、第一の受取手形、前受割引料)、昭和四九年三月期仕入帳一冊(一五、第一、第二の売掛金)昭和五〇年三月期仕入帳一冊(一六、同)、昭和四九年三月期納品書・請求書・領収証一二冊(一七、第一の売掛金)、昭和五〇年三月期納品書・請求書・領収証一二冊(一八、第一、第二の売掛金)、約束手形半片三枚(一九、第二の前受割引料)、物品領収証一枚(二〇、第一の立替金)、株式払込金保管証明書一通(二一第一の仮払金)、不渡小切手一枚(二二、第二の貸付金)、領収証一綴(二三、第一の保証金)、預り証二枚(二四、同)、公正証書二通(二五、同)、クラブ克美の請求書一綴(二六、第二の未払金)、期日経過約束手形八枚(二七、第二の仮受利息)、株式関係メモ一綴(二八、第一、第二の事業主借)、昭和五〇年分領収証・請求書・納品書一〇綴(二九、第二の買掛金)、袋入り吉浦分納品書控等一綴(三〇、第二の買掛金)、黒カバン入り名刺・請求書等一綴(三一、第一、第二の貸付金)、丸吉分約束手形及び小切手等一綴(三二、同)、雑書一綴(三三、同)、約束手形二枚(三四、同)、四九年分仕入帳(三五、第一、第二の買掛金)、五〇年分仕入帳(三六、同)

(事実に対する判断)

一、買掛金について

弁護人は、公表帳簿上の昭和四九年分期末買掛金のうちの田中商店分一、五三九、三九〇円、並びに同昭和五〇年分期末買掛金のうちの田中商店分六三五、六一〇円、大協ニット分三、五三二、五五〇円、中西準分四、四五〇、〇〇〇円、山本商店分二、四五〇、〇〇〇円、丸吉商店こと吉浦潔分四、四一七、八〇〇円は、架空ではなく、実在していたと主張する。

按ずるに、公表帳簿たる昭和五〇年分及び同五一年分の各仕入帳においては右各買掛金が翌期に繰り越されて支払われたことになっており、かつ、昭和五〇年分の田中商店分及び大協ニット分を除いては、右仕入帳記載の支払日と同一日付の領収証が存在するけれども、そのうち中西準作成名義のものは、その記載自体と被告人の検察官に対する昭和五三年三月四日付供述調書により被告人が昭和五一年一一月二日の日付を同年三月二日と変造したことが明らかなものであり、しかも、右仕入帳においては同年三月二日に右領収証記載の金額の支払をした旨記載されていること、さらに、右各仕入帳の記載を検察官提出にかかる仕入先の証憑書類の記載と対照すると売上除外以外の点においても、両者が突合しない部分が存すること等に徴すると、右各仕入帳及び領収証の記載内容はにわかに措信し難いものといわざるを得ず、他面、被告人に対する収税官吏の質問てん末書(昭和五一年一一月四日付、同月二九日付 昭和五一年一月二九日付、同年二月二六日付、同年三月三日付)、吉浦潔の検察官に対する供述調書、並びに証人吉村潔、同田口トミエの各供述を総合すると、被告人の仕入はそのほとんどが即時現金払いであったこと、公表帳簿上現金がないときは、裏の金で支払い、後日表の金を裏に廻わした際表の金で決済したように記帳していたこと、裏金で支払った分の領収証等は被告人らにおいて一部廃棄したこと、まれに委託品と称する商品を受納することがあったが、それは実質的にも委託販売にあたるものであり、その大部分について仕入れの計上をしていなかったことが認められるのであって、これらの点に前記質問てん末書中の前記各期末買掛金が実在しなかった旨の供述記載や前記吉浦の供述調書中の同人の被告人に対する昭和五〇年分の期末売掛金が存在しなかった旨の供述を併せ考えると、前記各期末買掛金が存在しなかったことはこれを肯認するのが相当であると思料する。

二、貸付金について

弁護人は、昭和五〇年分の丸吉商店こと吉浦潔に対する期末貸付金一、九五四、九八五円及び榎並春太郎に対する期末貸付金七、二一八、二四〇円のうち一、三五〇、〇〇〇円を越える部分は存在しないと主張する。

(1)  まず、吉浦に対する貸付金について検討するのに、弁護人提出の小切手控及び木津信用組合東大阪支店作成の証明書によると、右貸付金のうち一、一六七、〇六一円分に関する小切手三通(金額三三五、一一四円、振出日昭和五一年一月一三日、番号六七〇二、以下同じ順序で五〇〇、〇〇〇円、同月一五日、六、七〇五、三三一、九四七円、同月二三日、六七一七)は、被告人が昭和五〇年一二月三〇日金融機関から受取った小切手用紙を使用したものであることが認められるけれども、被告人方では公表帳簿(昭和五〇年分仕入帳)上も同年一二月三〇日の仕入や支払が記載されているうえ、裏金による薄外の貸付等は一二月三〇日ないし三一日になされてもなんら不自然ではないと考えられること、木津信用組合における吉浦の当座勘定元帳(写)によると昭和五〇年一二月三〇日及び三一日の両日に相当多額の入金があって手形の決済に当てられていることが認められ、同年末、吉浦においてかなりの資金の需要があったことが窺われること、同当座勘定元帳(写)及び前記小切手発行控によると、吉浦が右小切手用紙を使用して振出した小切手のうち一通(番号六七〇一の分)がすでに同年一二月三一日決済されていることが認められること、吉浦自身検察官に対する供述調書において、昭和五一年一月中の日が決済日になっている小切手はいずれも昭和五〇年一二月に振出し交付したものである旨述べていること等の諸点を総合すると、前記の小切手三通による貸付は昭和五〇年中になされたものと認めるのが相当であると考えられる。また、被告人及び吉浦は、当公判廷において金額七八七、九二四円、満期昭和五一年一月一五日の約束手形による貸借金は昭和五〇年一二月中に全額返済された旨供述するけれども、押収してある該手形によると、その支払期日の記載は、三月一五日、五月一五日、六月一〇日と三度訂正されており、その都度支払期日が延期されたことが認められるので、右の各供述は措信できない。(この点に関し、右両名は、昭和五一年になってから右手形を再度利用して金銭の貸借をした旨供述するけれども、そのようなこと自体不自然であり、かかる供述もまた措信し難い。)

(2)  次に榎並に対する貸付金について検討するのに、弁護人は被告人が所持していた榎並振出の小切手の中には書換により返還しなければならなかったものが多く含まれていた旨主張するけれども、右主張に副う証人榎並の尋問調書中の供述や被告人の当公判廷における供述は榎並の検察官及び収税官吏に対する各供述調書並びに被告人の検察官に対する昭和五二年九月二六日付、同五三年三月七日付(二通)各供述調書と対比し、かつ証人菊地和夫の供述や証人榎並に対する尋問調書によって認められる病状の経過や同人に対する取調の状況に照らして措信できず、検察官主張の金額の貸付金の存在は、右榎並及び被告人の検察官に対する供述調書によって肯認することができる。

(法令の適用)

被告人の判示各所為はいずれも所得税法二三八条に該当するところ、所定の懲役刑と罰金刑とを併科することとし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により所定の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役八月及び罰金八〇〇万円に処し、罰金刑の換刑処分につき同法一八条を、懲役刑の執行猶予につき同法二五条一項を、訴訟費用の負担につき刑訴法一八一条一項本文を各適用して主文のとおり判決する

(裁判官 青木暢茂)

別紙(一) 修正貸借対照表

昭和49年12月31日

〈省略〉

別紙(二) 修正貸借対照表

昭和50年12月31日現在

〈省略〉

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